月庵禅師仮名法語(十八=終わり)

〇 在家の人に示す 一切の道理は、自分というものがあるときに起こるので、自分を忘れるならば、いったいどんな道理がありましょうか。ただこれ、物事の成り行きに任せ、機縁に従うまでのことです。これは凡人の在り方でも聖人の在り方でもありません。また…

月庵禅師仮名法語(十七)

〇 在家の人に示す 仏が世に出られる所以のこの一大事は、天に先立ち地に先立ち、昔をはるかに過ぎ、今も超えています。凡人とか聖人とかの境地の中にはなく、考えや分別も及びません。これを名付けて不思議の法と言うのです。この法は、人々に具わっている…

月庵禅師仮名法語(十六)

〇 また示す 自分の心がもとより仏です。仏というのは、迷わない心を言うのです。迷わないところを悟れば、一切の仏や菩薩はすべて一心のうちに具わって、別の本体があるわけではありません。そうとは言っても、その徳(優れた性質)によって、しばらくの間…

月庵禅師仮名法語(十五)

〇 明貞道人に示す 自分のこの身心全体は、もとより迷うことのないものです。それゆえにこれを名付けて仏と言います。そもそも仏というのは、容貌が厳格で赤々とひかり輝き、自由に空を飛び、神通力で姿を変えるといったことを言うのではありません。そのよ…

月庵禅師仮名法語(十四)

〇 豫洲太守(1)に示す 即心是仏(心がすなわちこれ仏である)。外に向かって仏を尋ねてはなりません。即心是法(心がすなわちこれ仏法である)。他にさらにどのような仏法を求めましょうか。これら真実の一句は人の常日頃の心情を絶って思考の働きは停止…

月庵禅師仮名法語(十三)

〇 道漸居士に示す 我が身は本来、実体はなく、ただ父母の縁によって四大(しだい)が仮に合わさって成ったまでです。四大とは地水火風です。地大というのは、髪や毛や爪や歯や皮膚、肉、筋骨、垢などの物体です。水大というのは、唾や涙や膿や血、その他の…

月庵禅師仮名法語(十二)

〇 簡入禅人に示す 四大(1)はもともと、主体がありません。五蘊(ごうん)(2)は本来、空(くう、実体がない)です。たとえ父母の縁を借りていったんこの世に生じたように見えるといっても、実際には生じるものはありません。またこの人間界の縁が尽き…

月庵禅師仮名法語(十一)

〇 在家の人に答える およそ坐禅の修養は、初めからどのような道理をも心にかけることなく、ただ仏法を明らかにしたいと思う志を命としてこころがけるべきです。極め来たり、極め去り、仏法を明らかにしたいと思う心も、自然と忘れ果てて、ただ身は体ばかり…

月庵禅師仮名法語(十)

〇 信秀禅人に答える 坐禅の探求を行うとき、ただ昏散(こんさん(1))ばかりで、即心即仏(そくしんそくぶつ、その心のままで仏)にもなり得ない。もし昏散もない時、即心即仏とも、本分の所とも言うべきでしょうか。特別に得法(とくほう)といって悟り…

月庵禅師仮名法語(九)

〇 宗真居士に示す。 諸仏が世に出られ、また達磨大師が西から来られたが、かつてたった一つの真理でも人に与えたものはありません。ただ人々が本来もっている自分の本性(ほんしょう)を直接さし示すだけなのです。そもそも本来もっている自分の本性という…

月庵禅師仮名法語(八)

〇 了仁居士に示す 生死事大(しょうじじだい、生死の事は重大であり)、無常迅速(むじょうじんそく、無常は素早く到来する)、百年という月日も一回指をはじく間のように一瞬です。この身がむなしいものであることは、風が吹く前の塵、草葉の上の露と同じ…

月庵禅師仮名法語(七)

〇 在家の女性に示す 自分の心は本来これ仏なのです。千回生まれ変わり一万劫という長い時間を経ても、けっして迷ったということはないのです。迷ったということがなければ、また悟らねばならない真理というものもありません。すでに迷いとか悟りとかいうこ…

月庵禅師仮名法語(六)

〇 妙光禅人に示す 先日の十八首の素晴らしい和歌は、言葉の意味が絶妙であり、特に目も心も驚かすようなものでしたので、重ねて法語一篇をお示しすることを承りました。山野は私の老いや病をともに害して、明け暮れ臥せり、心身はぼんやりとして、ただ愚か…

月庵禅師仮名法語(五)

〇 信女(1)慶明に示す 仏法というのは別の事ではありません。ただ自分の心のことなのです。自分の心を善く保てば、そのまま仏の心であり、自分の身を善く持てば、そのまま仏法です。自分の心を悪く持てば凡夫の心であり、自分の身の振る舞いが悪ければ、…

月庵禅師仮名法語(四)

〇 存上人に示す 仏道に向かうことにおいては、誠(まこと)ということを保つこと以上のことはありません。誠を保っていれば、すべての縁、すべての状況はみなそのまま仏道であって、このほかに別に道はありません。保たないときは、目に触れても道を得るこ…

月庵禅師仮名法語(三)

〇 宗三禅閣(1)に示す 大道には方向や場所はありません。目の前を離れることはなく、仏心に形はないのです。その物その物と一つになってそのまま道理にかないます。一念が生じなければ実体を脱して法身が露わとなります(脱体顕露)。疑いの心がわずかに…

月庵禅師仮名法語(二)

〇 慈雲禅尼に示す 世間は無常です。一切とどまることがありません。たとえば夢や幻、水の泡や影が在るかのようであっても実体がないようなものです。世の中の人々はこの道理を知らず、実際に自分というものが在ると思って、さまざまな貪欲や執着の心が強く…

月庵禅師仮名法語(一)

*月庵禅師(げつあんぜんじ:1326-1389)=臨済宗、月庵宗光(げつあんそうこう)禅師の仮名法語。底本:『禅門法語集 上巻 復刻版」ペリカン社、平成8年補訂版発行〕 *〔 〕底本編者による補足、[ ]はブログ主による補足を表す。 ( )付数字はブログ…

夢窓国師二十三問答(八=終わり)

二十二 心がおこるのをどうすべきかという事 尋ねて言った。何の心もないように妄念をはらうといっても、見ること聞くことがないわけにはいかないので、その縁に従って心がさまざまに起こるのをどのようにすればよいでしょうか。答えて言う。心に浮かぶこと…

夢窓国師二十三問答(七)

二十一 心のないのを仏とする事 尋ねて言った。心のないのを仏の心とし、念が起こらないのを御法(みのり、仏法)であると承りましたが、妙法(言葉で言い表せない優れた真理)は心と念の事だというのはどういうことでしょうか。答えて言った。どのような心…

夢窓国師二十三問答(六)

十八 何事も思わず為すこともないのは悪い事 問い。そうすると、何事も思わず為すこともない者を良いとおっしゃるのでしょうか。答え。信心がなく仏道を志す心もなくて愚かである人、そのように為すこともなく御法(みのり、仏法)を心にかけることもなく無…

夢窓国師二十三問答(五)

十四 懺悔に二種類があること 尋ねて言った。二つの懺悔のうち、どちらを行うべきでしょうか。答えて言うには、人の心に任せるべきであるとはいえど、あらゆる心は無いことでありますから、無念無想ということが肝心でございます。有相(うそう:姿形がある…

夢窓国師二十三問答(四)

十一 善根(ぜんこん)(1)に有漏(うろ)無漏(むろ)(2)の違いがあること 尋ねて言う。善を行うには有漏の善、無漏の善といって、行う人の心によって、優劣の違いがあるというのは、どのようなことでしょうか。答えて言う。他人が大変栄えているのを…

夢窓国師二十三問答(三)

七 仏が人と異なるという事 尋ねて言う。仏は姿かたちも人より優れ、美しく、光を放ち、心も衆生とは違っておられると承知しておりますのに、私どものような者と同じとは、まったく納得しがたいことでございます。どのように理解すればよろしいのでしょうか…

夢窓国師二十三問答(二)

五 根本は生まれず、死なない事 尋ねて言った。生まれるものはすべて死ぬものである。生まれればこそ、私とか人とかいうこともあり、また死ぬからこそ、この世にとどまらず、仏ともなり、地獄にも入ると言いますのに、生まれもせず、死にもしないとはどのよ…

夢窓国師二十三問答(一)

*夢窓国師(むそうこくし:1275-1351)=臨済宗天龍寺開山、夢窓疎石(むそうそせき)禅師の仮名法語。底本:『禅門法語集 上巻 復刻版」ペリカン社、平成8年補訂版発行〕 *〔 〕底本編者による補足、[ ]はブログ主による補足を表す。 ( )付数字はブ…

夢窓国師仮名法語(十=終わり)

輪廻ということを、 あかつきのうき別れにもこりずして あふはうれしき宵のたまくら (夜明けのつらい別れにも懲りずに、また宵になるとぴったりと顔と会うことがうれしい手枕のように、いずれ別れてしまうが出会いの喜びを繰り返す輪廻であることよ。) ど…

夢窓国師仮名法語(九)

題しらず このほどは思ひおりつるぬのひきを けふたちそめて見にきつるかな (今回は、前から思いをはせていた布引の滝に、旅立って今日見に来たことだよ。) きる傘もおへるたきぎもうづもれて ゆきこそくだれ谷のほそみち (身に着けている傘も背負ってい…

夢窓国師仮名法語(八)

有馬の温泉につかられたとき、その山のふもとにお堂があったが、古くなって破損していて雨漏りもしているのをご覧になって、 寺ふりてあめのもりやとなりにけり ほとけの仇をいさやふせがん (寺が古くなって雨漏りがするようになってしまった。仏に害をなす…

夢窓国師仮名法語(七)

綱州の退耕庵(1)に住まわれていたころ、ある人が来てこの住居の珍しいことに心がとまったことを和歌に詠んだが、その返歌に、 (1)千葉県いすみ市にあったらしい庵。そこからすると綱州は上総国をさすか。 めづらしくすみなす山のいほりにも こころとむ…