大応仮名法語(六)

〇また、この心を一つの鏡に喩える。心に浮かぶ念を、鏡に映る姿に喩える。この心の鏡に、善を行う時は善の姿が映り、悪を行う時は悪の姿が映る。心で捉えた行いやその結果のすべては、心の姿となって、この姿にひかれて六道四生*の輪廻に沈むのである。心…

大応仮名法語(五)

〇また言う。法法本来法(個々の姿はそのまま真実の姿)であり、心心無別心(時々の心のありさまは、そのまま仏心)である。世界や国土がいまだ姿を現さず、仏の世界と衆生(生きとし生ける者)の世界とがいまだ二つに分かれない前、この心は一人己を現し、…

大応仮名法語(四)

〇尋ねて言った。大用現前(だいゆうげんぜん)の所(真如の大いなる働きがはっきりと目の前に現れたところ)とは、どのようなものか。 〇答えて言った。銀山鉄壁(ぎんざんてっぺき)(銀の山、鉄の壁)。 〇尋ねて言った。悟った時も銀山鉄壁、悟らない時…

大応仮名法語(三)

〇尋ねて言った。仏祖不伝の所(仏陀や祖師たちが伝えなかったところ)とはどのようなものか。 〇答えて言った。やって来て尋ねるならば、もう天と地が遥かに隔たってしまう。意図をもって求め、意識して求めるなら、棒を振りかざして月を打ち、靴を隔てて痒…

大応仮名法語(二)

〇問う人が言う。あらゆる物事は想念を持たず無心で、良し悪しの分別はないが、我々はそれらの物事に対してすべて良し悪しの分別がある。どうして物事と一体であるはずがあろうか。 〇禅師が答えて言う。我々が見聞きしたり気付いたりする精神の働きは、こと…

大応仮名法語(一)

*大応国師、南浦紹明(なんぽしょうみょう:1235-1309)禅師の仮名法語。底本:『禅門法語集 中巻 復刻版」ペリカン社、平成8年補訂版発行〕 *〔 〕底本編者による補足、[ ]はブログ主による補足を表す。 *はブログ主による注釈。 ーーーーーーーーー…

塩山仮名法語(12)=終わり

井口殿へのお返事 百二十四 お手紙、詳細に拝見しました。このように熱心に参究なさいますこと、貴重なことと存じます。そもそもお手紙を拝見しましたところでは、少し似ているところもございますが、それもただ心が知るところでございます。一大事は、心の…

塩山仮名法語(11)

井口禅門(いのぐちぜんもん)への返答 百十一 お手紙で詳しく承りましたところ、あなたはまだこの公案の的を射ていないようです。六祖慧能禅師がおっしゃいました。「幡が動くのではない。風が動くのではない。あなたがたの心が動くのである」と*。もしこ…

塩山仮名法語(10)

正法庵主が強いて望むのでこれを与える 九十七 少年の頃から一つの疑いが起こっていたのです。そもそもこの身を差配して、「誰であるか」と問えば「私だ」と答えるものは一体何ものかと、一念の疑いが起こり始めてから、歳を重ねるままに疑いが深くなってい…

塩山仮名法語(9)

八十一 初祖達磨大師が言う。一切は空であると言って因果を知らない人は、無間暗黒地獄(むげんあんこくじごく)*に落ちると。たとえ口で言うところが似ているといっても、情識**によっていることはどうしようもない。初心の求道者の多くは、仏法の本性が…

塩山仮名法語(8)

一方居士本間将監(いっぽうこじほんましょうげん)に示した教え 七十二、面と向かい合って直に会っているもの、彼は一体だれか。言うことができたとしても誤り、言うことができないとしても誤りである。結局どうだ。 七十三、説法のあることを知らせる幡竿…

塩山仮名法語(7)

六十二、さまざまな業(ごう、自分の行為によって引き受けることになる結果)の根本は、識情(しきじょう)*である。識情を忘れ去れば、解脱(げだつ)**の人である。その識情というものは、自分の本性を悟れば寂滅(じゃくめつ)***するというのは、…

塩山仮名法語(6)

中村安芸守月窓聖光に示した教え 四十八、「応無所住而生其心(おうむしょじゅうにしょうごしん)」(まさに住する所なくして其の心を生ずべし」*という一句について、どのように修行したらよいのかというお尋ね、承知しました。道を覚ることは、特別な注意…

塩山仮名法語(5)

四十、釈尊(しゃくそん)*は、さまざまな難行、苦行をなさっていた頃は、ついに仏に成ることもなかった。六年間、すべてを投げ捨てて座禅をして心を悟り、つまり正しい悟りに到達して、すべての衆生のために心の真理を説かれたのを、一切経と言ったのであ…

塩山仮名法語(4)

神龍寺の尼長老に与えた教え 三十一、仏に成りたいという望みのある人は、仏になるはずのその主(ぬし)を知らねばならない。この主を知りたいと思うなら、たった今の一念について参究しなさい。あらゆる善悪を思い、色を見、声を聞くものはいったい何かと、…

塩山仮名法語(3)

二十一、一念も生じないところを極めて進んでゆくと、虚空のごとく一つの物もないと知られるところすら絶え果てて、まったく味わいもなく闇夜のようになるところについて退く心を起こさず、そうしてこの音を聞く者は、いったい何者であるかと力を尽くして疑…

塩山仮名法語(2)

九、そもそも、たった今、目では色を見、耳で声を聞いたり、手を挙げ、足を動かしている主人は、いったい何者かとみれば、こうしたことは皆、自分の心の行うことだとは分かっているけれども、本当のところ、どんな道理なのかは知らない。これは何も無いのだ…

塩山仮名法語(1)

*底本:古田紹欽(訳注)『日本の禅語録 第十一巻 抜隊」講談社、昭和五十四年〕 *この法語には、古田紹欽氏の現代語訳が同書に掲載されていますので、重ねて現代語訳を出すのは少々はばかられますが、同書は品切れで入手できず、WEB上には現代語訳は出…

盤珪禅師「盤珪仏智弘済禅師御示聞書 下」(12=終わり)

三十五 龍門寺の本尊は観音菩薩である。禅師の作である。それを知りながら、ご説法のときに奥州(東北地方)の僧が寄せ柱(よせばしら:馬などをつなぐ柱)のところに立って尋ねて言うには、あの本尊は新仏でございますか古仏でございますか、と。 師がおっ…

盤珪禅師「盤珪仏智弘済禅師御示聞書 下」(11)

二十九 ある僧が尋ねた。不生でいなさいというお示しでございますが、私が思いますには、それでは無記*でございますが、さしつかえありませんか。 師が答えて言う。あなたが何とはなしにこちらを向いて私の言う事を聞いているときに、後ろからふいに人が背…

盤珪禅師「盤珪仏智弘済禅師御示聞書 下」(10)

同二日説法 二十八 これまで皆さんお聞きの通り、各々生まれついた仏心でございますが、世間のならわしで、悪い世渡りを習いましたので、惜しいとか可愛いとかの餓鬼道に仏心を変えてしまったのでございます。ここをじっくりとご理解くだされば不生の気にな…

盤珪禅師「盤珪仏智弘済禅師御示聞書 下」(9)

また天秤棒で荷物を売る者が夜明け方から天秤棒を担ぎまして野を行き、山を越え、谷を走って世渡りに苦労をいたしますが、これらは出家の修行に比べてはかえって苦労は似たこともありません。なぜなら、商人も自分の家を構えて荷物を担いで出て、朝は星を頭…

盤珪禅師「盤珪仏智弘済禅師御示聞書 下」(8)

九月一日説法 二十七 どなたも私の説法を聴聞しようと、夜明け前からこのように大勢押し合って窮屈な目を顧みずにこの会合に参られるのは、もちろんのこと有難いことと存じます。というのも皆さん夜明け前から早起きをなさってここへお出でになるのは、どな…

盤珪禅師「盤珪仏智弘済禅師御示聞書 下」(7)

その折に、人々が私の説法を聞くといって参詣するのをこの婦人が見まして、親の所へは帰らずに大勢に混じりまして私の庵へ参り、その日の説法をよく聴聞して、説法が終わって皆が帰って行きますので、この女房も帰り路で親の隣の人に会いました。この人がど…

盤珪禅師「盤珪仏智弘済禅師御示聞書 下」(6)

男とは違って、ご婦人方は正直でございます。心も男より優れない所もございますが、悪をなせば地獄へ落ちると申し聞かせますと少しも疑う心がなく、地獄に落ちることを知り、善を行なえば仏になると教えますとそのまま仏になるぞと一筋に思われますので、い…

盤珪禅師「盤珪仏智弘済禅師御示聞書 下」(5)

同二十六日朝説法 二十六 どなたも仏に成りたいとお思いになって、このように早くからこの集まりへおいでになるのは、もっともな心掛けでございます。このたび仏に成らなければ、万劫のあいだ仏に成ることができません。人間界に生まれましたのは仏になるた…

盤珪禅師「盤珪仏智弘済禅師御示聞書 下」(4)

ですから今日から、男は男の仏、女は女の仏でございます。この女の仏ということについて、女は仏にはならないものだというので、ご婦人方は切なく思われるというが、さてさてそのような事ではございません。男女にどのような違いがありましょうか。男も仏体…

盤珪禅師「盤珪仏智弘済禅師御示聞書 下」(3)

同二十五日朝の説法 二十五 このように夜明け前から大勢この集まりへお集りになって私の話すことをお聴きになろうとお思いになる事、これがすなわち仏心で不生の心でございます。朝早くからどなたもここへお出でになるのは、会い難い説法とお思いになるので…

盤珪禅師「盤珪仏智弘済禅師御示聞書 下」(2)

(二十四つづき)さて、江戸である儒学者が私にお尋ねになった事がございます。皆さんもお聞きなさい。よい事でございますので、話して聞かせましょう。どうお尋ねになったかというと、不生不滅の道理は、確かにお聞きすることができ、ごもっともに思います…

盤珪禅師「盤珪仏智弘済禅師御示聞書 下」(1)

*底本:鈴木大拙(編校)『盤珪禅師語録 附 行業記」岩波書店、1941年〕 *〔 〕底本編者による補足、( )は底本編者の挿入、[ ]はブログ主による補足を表す。 *はブログ主による注釈。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 盤珪仏智弘済禅…